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『秋の夜長に』

こんにちは。富山店設計課の東です。
残暑厳しく…と挨拶する間も無いほどすっかり秋らしい毎日が続いています。
もうそろそろ夏の暑かった記憶も薄れる頃でしょう。

さて、私は2年ほど前から落語を聴くようになりました。
旅行中に飛行機の機内放送で落語をたまたま耳にしただけの大したきっかけでは
ありませんでしたが、聴いた『モノ』が良かったのか、そこから少し興味を持った次第です。

落語は、演劇等と同じいわゆる再現芸術でありますが、
数多の登場人物をただひとり言葉と仕草のみで表現する独特な手法は
まさに職人技といったところでしょうか。
同じ噺でも演者が違うとまるで内容が変わって聴こえる時があります。
私たちの仕事でも同じ完成品において携わる個人の技量やセンスによって
過程や仕上がりに微妙な差が生まれます。
お客様に何かを提供するという点では私も『職人技』と呼ばれるような
仕事を目指したいものです。

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落語には、粗忽者といわれるおっちょこちょいな人がよく登場します。
そんな粗忽者を自分に照らし合わせて聴くと、
自分の生き方の方向性について考えさせられることもあり、
最近はさながら『聴くビジネス書』といった用途も兼ねてきています。
冒頭で紹介したように、噺家はひとりで物語の全てを表現しなければなりません。
自分のやりたいようにやる方もいるでしょうし、相手に合わせたやり方を模索する方もいると思います。
そしてそれを評価するのはお客様であり、その評価に対して日々振り返り
厳しい稽古に励んでいると思います。
私たち設計職もひとりで作業する工程が多い仕事です。
自分の仕事が相手の要求にぴったり重なったときに素晴らしいものができる
という部分で通じるところがありますので、
常に相手の立場に立ったものの考え方をしつつ、自分自身のやりたい事をうまく表現できるよう
日々精進していきたいと、
落語を通して感じたりします。

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因みに私がお勧めする噺は、断然トップで『三代目古今亭志ん朝』の『唐茄子屋政談』です。
道楽がもとで勘当され、世間の厳しさにさらされた若旦那がそこから商売を通して
人の優しさや情け深さに触れる長編の人情噺となっています。(通しで聴くことをお勧めします)
人情噺ですが涙だけでなく笑いや皮肉もあり、
更に人生の教訓も詰まった素晴らしい内容だと思っています。
伯父さんが若旦那に小言をかけながら商売に送り出す件では、
小言の裏にある伯父さんの心配する気持ちが
見え隠れするように表現されており、私がこの噺の中で特に気に入っている部分のひとつです。
本音と建前とよく言いますが、それぞれ登場人物の言葉の裏に込められた思いを
読み解くように聴くと、更に趣が深くなり繰り返し聴いても飽きません。
いろいろな噺家さんの『唐茄子屋政談』がある中でも
やはり『志ん朝』の噺が間の取り方や多彩な人物描写が絶妙で、
一番面白く感じます。

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※唐茄子とはかぼちゃの事です

他にも『二番煎じ』という噺では“落語といえば”に続く
代表格の『食べる仕草や飲む仕草』を見る事ができます。
この仕草は演者によって表現の仕方が異なりますので、聴き比べが面白いと思います。
猪鍋の具を一口ほおばる毎に一句ひねりだそうとする部分があるのですが、
何度聞いても毎回ニヤリとしてしまいます。

上記お勧めのふたつはどちらも演者が『志ん朝』の内容です。
単に私が『志ん朝』の噺が好きというところが大きいのですが、
好きなアーティストの好きな曲を人にお勧めする感覚だと思ってください。

『志ん朝』の他にも有名無名問わずいろいろな噺家さんによる様々な演目がありますので、
落語に少しでも興味のある方は自分に合う音楽を探すような感覚で、
気軽に試してみてはいかがでしょうか。
秋の夜長のお供に是非。

…あぁそれとはじめはどれを聴こうか迷うと思いますが、その際はどうぞ
『慎重』
に決めて下さい。

おあとがよろしいようで…<(_ _)>